最終更新日:2011年2月26日

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アオリイカ研究の聖典

◆アオリイカ研究の聖典
「アオリイカの生態と資源管理」(上田幸男 2003年 水産研究叢書50)は、アオリイカに関する研究論文を探している最中に知りました。県立図書館の蔵書だったのでリクエストしました。資源管理?養殖の研究だろうかと、あまり興味は持たなかったのですが、この本はエギンガー必見、アオリイカ研究の聖典でした。
目次のとおり、2003年時点でのアオリイカに関する研究を体系的に整理した集大成です。エギングのテクニックは掲載されていませんが、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」です。エギングに応用できる知識がふんだんに記載されています。
通常販売はされていません。図書館検索で見つけたら、即、リクエストです。
管理人は、社団法人日本水産資源保護協会に問い合わせて購入しました。1冊900円。送料別。振り込み用紙が同封されます。詳しくは同協会にお問い合わせください。

◆紹介における注意事項
長文の転載は禁止されているため、要旨のみを紹介します。
専門用語を分かりやすいように言い換えたり、数値を概数に端数処理している場合があります。正確な表現や数字は原文をご覧ください。
掲載されている図や表を見て、管理人が独自に、原文にはない解釈を加えている箇所もあります。
なお、図表の一部転載及び要旨の紹介は同協会の承諾を得ています。

第1章 分類と地理的分布

アオリイカは閉眼類ジンドウイカ科Loliginidaeに属し、学名はSepioteuthis lessoniana LESSON,1830 だそうです。分布範囲は、東はインド洋西部、紅海から西はハワイ諸島、北は北海道、南はオーストラリアに及んでいますが、ヒレの形状が違ったり、個体間に形状の差があり、完全に同じ種ではないようです。
日本沿岸では、シロイカ、アカイカ、クアイカの3型が分布し、鹿児島以北に分布するアオリイカの大部分はシロイカ型です。
同じシロイカでも、日本海と太平洋では遺伝子レベルで異なります。

第2章 分布と生息環境

◆水温とエサの捕食、成長、生存について
飼育して水温の影響を調べています。
[飼育したイカ]
定置網で捕まえた胴長4cm〜120cmの個体。
[クロメジナ水槽]
平均水温15.4〜33.8℃の15水槽に、毎日、クロメジナ9尾(全長はイカの0.4〜0.9倍(体重は0.02〜0.2倍))を与えたところ、平均水温16.8〜33.8℃で捕食しましたが、15.4℃と33.8℃の水槽では死んだイカがいました。
[クルマエビ水槽]
平均水温13.2〜33.8℃の26水槽に、毎日、クルマエビ9匹(全長はイカの0.4〜1.9倍(体重は0.01〜1.0倍))を与えたところ、平均水温14.5〜29.6℃で捕食しましたが、13.2℃と33.8℃の水槽では死んだイカがいました。
[クロメジナ水槽、クルマエビ水槽共通の結果及び考察]
水温が15℃以下になると死ぬ個体が増え、13℃以下になると大部分は粘りの強いスミを吐いて死にました。高温に対しては30℃を超えてもエサを食べるし、エサを食べる量や効率は20〜30℃が適温であり、アオリイカは暖海域に生息する動物と考えらます。なお、稚仔の短期的な飼育実験では、35℃以上になると全滅しましたが、水温が30℃を越える海域はほとんどないそうです。

エサを食べる量ですが、水温が上がるに従って多くエサを食べ、水温25〜30℃が最も多くエサを食べました。この時、最大で体重の0.4倍の重さのエサを食べています。これ以上水温が上がると食べる量が減り、さらに上がると死に至りました。この傾向は、クロメジナにもクルマエビにも見られます。
食べたエサに対する体重の増加について、クルマエビよりもクロメジナの方が効率が良いようです。クルマエビを食べた場合、水温が上昇するほど効率よく成長していますが最大でも0.1倍。クロメジナは20〜25℃での効率が最も良く、最大0.3倍ですがバラつきが大きいです。

◆標識放流からみた移動・回遊
[徳島県での放流]
胴長10〜26cmの305個体を放流したところ、15個体(4.9%)を捕まえました。移動距離は直線距離で16.2km以下。平均2.5km/日以下でした。
11月5日に18.2cmのイカを放流して47日後に22.3cmに、11月17日に14cmを放流して37日後に19.7cmに、11月17日に20.6cmを放流して110日後に28.4cmに成長していました。その他の個体はほとんど成長していませんでした。
[長崎県での放流]
11月に放流し、11日後に直線で120km離れた鹿児島県で捕獲されました。
[若狭湾での実験]
10〜12月に放流し、直線で2〜70km離れた西部海域で捕獲されました。

以上の実験から、黒潮の影響を受け、比較的水温の高い太平洋では移動範囲は小さいのですが、冬場に水温が低下する日本海では広域的に移動していると推測されます。

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第3章 繁殖

◆オスとメス
アオリイカの雌雄の識別方法は胴の斑紋が有名ですが、繁殖行為に用いる左第4腕先端(交接腕)は雌雄で形状が異なりますし、口球口唇部の受精状況でも分かります。
斑紋は二次性徴の結果として発現し、メスには楕円形の斑紋が、オスには線状の斑紋が現れます。胴長10cmを越えた頃から斑紋が現れはじめ、16.5cm以上になると完全に識別できます。
交接腕は、メスは先端まで吸盤になっていますが、オスは肉質が突起しています。胴長5.5cm以上から交接腕により性の識別が可能となり、8.5cm以上になると完全に識別できます。
オスとメスの個体比は、1987年から2001年にかけて徳島県で漁獲された約25,000個体を比較したところ、月によって変動はありますが周年を通してみると1:1でした。9月〜11月にオスが多いのは、成長期はオスの方が早く成長するため漁獲しやすく、見かけ上多くなると考えられるようです。



◆交接、産卵及びふ化
アオリイカのオスは繁殖期になると、カプセルの中に精子塊をパックした精包(精莢)を作ります。オスは左第4腕を使って精包をメスの口球外唇部に植え付け、この行動を交接と言います。
メスは、卵をゼリー状の物質で包んだ卵のうの塊を産みます。徳島県での実験では、卵のうにはだいたい4〜8個の卵が含まれ、26〜267の卵のうに137〜1,141の卵が産みつけられていました。
産卵が終わる前に死んでしまう個体もいると考えられています。
なお、メスのうち、胴長12cm以下の小型個体は卵の発達が未熟で、胴長15.5cm以下の個体は包卵腺(卵を包むゼリー状の物質を分泌する)が未熟です。
精包は短時間で口球外唇部から落ちるため、多回交接し、多回産卵します。
飼育実験では、産卵からふ化までは15℃で54〜56日、20℃で33〜36日、25℃で24〜27日、30℃で19〜23日を要しました。

◆産卵場
徳島県が水深15mまでの産卵場所を調べたところ、定置網のロープやイカリ(水深6〜7m)、イソバナ群落(水深15m)、アマモ場(水深3〜5m)で卵のう塊を確認しました。いずれも入り江、湾内、島陰など外洋からの波浪の影響を直接受けにくく、比較的穏やかな海域でした。ただし、この海域で捕獲される親イカの数から比較して見つけた卵のう塊は非常に少なかったようです。他の調査では、潮通しが良いこと、潮流の弱いこと、稚仔の隠れ場となるウミショウブなどの海藻が密生していること、淡水の影響が少ないこと、親イカの外敵が少ないこと、エサが豊富なこと、海底は砂地でところどころに岩礁があることなどが挙げられています。

水深については、概ね15mより浅い場所で卵のう塊を確認した調査結果が多いのですが、京都府の調査では水深30m及び40mの定置網や柴漬けに卵のう塊が産みつけられていました。他の調査でも水深16mの場所や20〜30mの場所で卵のう塊を確認しており、さらに深い場所でも産卵している可能性があります。
産卵中、オスはメスを見守る(見張って)います。
雌雄1個体ずつのペアの飼育実験では、胴長24cmのメスが、6,7月の産卵期に、11回の産卵で7,780個の卵を、8回の産卵で6,565個の卵を産みました。

第4章 成長と寿命

オスもメスもふ化後6ヶ月間の成長速度が大きく、産卵期と稚仔育成期が高水温・高塩分の年ほど大きくなります。水温が低下する時期の成長は停滞します。
なお、オスの方が大きくなります。

23℃の定温で3世代に及ぶ飼育の報告では寿命は最大約300日で、200日までにほとんどの個体が死亡し、最短148日で死んでいます。自然海水(19.6〜30.7℃)で306日間飼育したという報告もあります。

第5章 飼育下における捕食行動と疑似餌に対するサイズ選択性

◆捕食行動
飼育下におけるアオリイカの捕食行動の観察結果です。
定置網で捕まえた18mm〜45mmのアオリイカに対してサイズの異なるクロメジナ(合計92匹)を与えています。
捕獲すると直ちに触腕をからめてエサを口に移し、後頭部を深く噛み切って殺します。後頭部が硬い場合やエサが胴長の1/2より大きい場合は切り落とすようです。また、背ヒレ、尾ヒレ、脊髄は残す場合が多いそうです。
既にエサを捕まえていても、他の腕で新たにエサを捕まえることもあるそうです。

◆サイズの選択
実験期間中、いずれの実験でも、より小型のクロメジナから捕食される傾向が認められました。また、全てのクロメジナの全長がアオリイカの胴長より大きい場合の捕食の成功率は低く、胴長1.5倍以下のクロメジナを捕食しましたが、他のクロメジナは1.5倍以上あり、その後4日間エサを捕まえませんでした。
他の実験も含めると、胴長が2倍以上のクロメジナを捕まえることはありませんでした。また、水温が20℃イカの水槽ではアオリイカより小さいクロメジナが捕獲されませんでした。実験開始後11日後、16日後に餓死したアオリイカもいます。
アオリイカの0.8〜3.7倍の大きさのクロメジナはアオリイカを捕食しました。だいたい、1.7〜1.9倍付近が捕食−被捕食の分岐点のようです。

他の実験では、ふ化後30日までのアオリイカは胴長と等しい全長のエサをよく捕食するが、30日以降になると、時には胴長の2〜3倍近くにもなるエビや小魚を捕食することが報告されています。
また、ふ化後60〜300日齢で1日当たり体重の20〜35%を食べる報告もあります。
24時間で体重の183%ものエサを食べたという報告や、1日のエサが体重の110%を超えると、特にエサの頭部を残すという報告もあります。

第6章 資源変動と資源の有効利用

◆照度とアオリイカの活性
アオリイカの漁獲は月周期性に依存しいる報告がされており、釣りと定置網の漁獲量を比較実験しています。釣りは、朝夕の薄明時及び夜間に行ったものです。釣りも定置網も、新月前後で漁獲量は少なく(操業していません)、満月時を中心に漁獲量が増加しています。詳しく見ると、満月の5,6日前の漁獲量が多くなっています。
徳島でアオリイカ釣りを営む漁業者に「どの月が最もよく釣れるか」というアンケート調査をしたところ、半月(上弦の月)と満月の中間によく釣れるという回答が多かったという報告もあり、今回の調査結果と一致しています。
標識放流から、アオリイカは昼間の捕食の活性は低いが夜間の活性は高いという報告もあります。胴長4cm以上になると昼間の捕食が不活発となり、夜間の捕食が活発になるという報告もあります。
このように、アオリイカの行動は照度に強い影響を受けるようです。

◆漁獲量と環境要因
徳島県で、4〜10月における降水量、水深10mの水温と塩分、台風通過の影響を示す海面気圧を調査し、これらの環境要因がアオリイカの漁獲量に及ぼす影響を調べています。
水温のみが統計的に意味のある差があり、漁獲量に最も大きな影響を及ぼす要因と言えます。なかでも、7月の水温が最も強く影響していました。これは、水温が高いほどふ化が早くなり、成長や生残が良好となり、良好な成長によって捕食を免れる確立が高まる可能性が考えられます。
塩分、降水量、大気圧と漁獲量には関係があるようですが、統計的に意味がある影響はありませんでしたが、塩分については飼育実験から、卵及びふ化稚仔ともに低塩分に対して抵抗性が弱いという実験結果があります。
また、他の調査では、6〜8月の降雨量が多いほど秋のアオリイカの漁獲量が減るという報告もあります。
なお、親イカの漁獲量と翌年の発生量は統計的に意味がある差はありませんでした。データをまとめた図を見ても、傾向すらつかめないほどバラバラです。

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